2010年2月20日土曜日

漫画に使われる書体

漫画のネームには結構いろいろな書体が使われます。その中でも本文ネームやモノローグ、ナレーションなど主なものをいくつか取り上げてみます。

■本文ネーム

font_antig フキダシ内の普通のしゃべり言葉に使われる基本の書体です。もっとも作品によっては怒鳴りまくっていて、この書体を見かける方が少ないものもあたりします。ここで使われるのはかな部分がアンチック、漢字部分が太ゴチックのアンチック +太ゴチック(アンチックBG、アンチGと略す)が普通です。

アンチGが使われるようになったのは、明朝とゴチックくらいしか使えなかった活字時代に、明朝を使うと活版だと横線が飛びやすいのでゴチックを使いたいが、そうするとこんどはかなから受ける印象が堅くなって、しゃべり言葉としては不自然に見えたため、その折衷案として採られたものではないでしょうか。それがオフセットになって細い線が飛びにくくなっても習慣として残っているようです。

貸本屋の時代はコスト削減のために活字でも写植でもなく、和文タイプの文字を貼り付けたりしていたこともあったようで、こうした場合はアンチGではなく明朝体を使っています。また、DTPの初期にはデジタルフォントにアンチック体が乗っていなかったために明朝を使ったり、かなは特太明朝、漢字は太ゴチックという組み合わせ、あるいは割合早くに移植されていた築地体をかなに使用しているのが見られました。

■モノローグ

font_nard   キャラの心の中の言葉を表示する際に使われるのはたいていナールDです。ただ、フキダシ内に収まる際には、少女漫画ではナールDのままですが、少年漫画では太明朝が使われることが多いようです。

勝手な想像ですが、かつての少年漫画ではモノローグがフキダシの外に出ることはなく、そのためにモノローグは活字で組む関係上太明朝を使っていたのでしょう。モノローグがフキダシの外にダダ漏れになるのは、少女漫画の手法の流入なので、ここはナールDになったのだと思います。また、フキダシの外に出る文字には白フチをつけても絵とごっちゃになりやすいですから、横線が細い明朝よりも線の太さが均一なナールの方が、地の絵に紛れにくいというメリットを採った可能性もあります。

ナールというのは70年代初めに中村征宏氏によって開発された丸ゴシックです。「ナ」かむらの「ラ」うんど文字ということで、NAR、ナールと名付けられたと聞きます。原典が見つからないので都市伝説かもしれません。ナールは活字に対する写植の優位性を示す大きなポイントとなった偉大な書体です。

■ナレーション

ナレーションや地の文(「翌日」など)に使う書体はあまり一定していません。アンチGの太ゴチックをかなもろとも使ったり、ゴナDを使ったり、ナールDを使ったり、様々です。ただ、基本はゴシック系だといえるでしょう(ナールも丸ゴシック系ですので)。

■怒鳴り声

font_gonaefont_umfont_inabra   怒鳴り声にはいろいろな書体が使われます。よく見かけるのは右端のゴナE(時には一回り太いゴナH)で、そこまで強調したくないもののアンチGでは弱く感じられるときには中央の大蘭明朝が使われることが多いようです。それ以外でもうちょっと荒々しさなどを出したいときには左端のイナブラッシュが使われたりもします。ここはもう写植の見本帳を見て、いろいろと(ムダに?)悩むところです。

ところでゴナというのは前述のナール同様中村氏のデザインによる書体で、その秀逸さ、汎用性から幅広く使われています。一時期は「困ったらゴナE」で済ましていましたし、実際大抵はそれでなんとかなりました。

漫画のネームには結構いろいろな書体が使われます。その中でも本文ネームやモノローグ、ナレーションなど主なものをいくつか取り上げてみます。

ちなみに真ん中のイナブラッシュは稲田しげる氏によるもの。イナクズレやイナミンなど、「イナ」のつく書体はこの方の手によるものです。中村氏が本格派ピッチャーだとすると稲田氏は変則派という感じで、メインには使えないけれどサブにあるとすごく便利という書体を連発されていました。

■おどろネーム

font_inakuzure   おどろおどろしい雰囲気を出す書体はずっと淡古印が使われてきました。ところが1989年にイナクズレが登場すると、ホラー漫画のブームと相まって非常によくこの書体を見かけるようになりました。

この淡古印とイナクズレ以外にも、オクギやイノフリーなども上手く使い分けられています。デジタルフォントでは割とウィークポイントでしたが、2008年暮れにフォントワークスから万葉古印ラージとコミックミステリがリリースされたことで、かなり落ち着くことができました。

■機械越しの音声

font_ty411   電話やテレビの音声、スピーカー越しの声などにはタイポスが使われます。タイポスはアンチック同様かなだけの書体なので、漢字は別書体を使うのですが、どの書体を使うかは雑誌によって……どころか作品によって違ってたりします。

私個人は写研のお勧め通りタイポス411に特太明朝を組み合わせるのが好きですが、細めのタイポス37を使われる人もいれば、組み合わせる相手を明朝ではなくゴシックにする人もいます。

なお、タイポスというのはタイプバンクが開発した書体で、37とか411という数字は横線3:縦線7、もしくは横線4:縦線11の割合の太さでデザインされた書体という意味です。数学的に作られてシャープな雰囲気を持つのが、機械越しの音声にぴったりと捉えられたのでしょう。



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